グッドバイ・ノイジー・ワールド

朝10時, 私.

昨日, 夜8時に寝たのに... "早寝早起き"の早起きのみに失敗することで, クラシカルな教訓である, 「二兎を追うものは一兎も得ず」を思い出さざるを得ない.

そもそも, 最強の生活が"遅寝早起き"であることは自明なので, "早寝遅起き"は論理学上, クソの生活であることもまた自明である.

命題: 遅寝 ∧ 早起き → 最強

対偶: 最強ではない → 早寝 ∨ 遅起き

 

しかし, 自分のTo-doリストの中には"ラーメンを食べる"があったことを思い出し, 心の中に光が差し込む. 厳密に言えば, 昨日の18時に遂行すべきイベントであったのだが, 昨日のその時間に目的のラーメン屋に到着した時点で閉店30分後であったために, 再度赴く以外の選択が存在しなかったのである.

深夜まで営業しないラーメン屋が存在することも驚きだが, 大学内の購買に併設されているものであるため仕方ない.

昨日確認したところによると, 平日は11:00 ~ 17:30の間に営業しているとのことなので, 営業開始に合わせて家を出立した.

結局, 目当てのラーメンは高い and おいしくない and 辛い (自分で入れた大量の香辛料の影響)の三拍子なので, ロジカルにヤバかった.

しかし, ラーメン屋に併設されている購買で, 大学限定のパーカーとTシャツを買えたので心理的損害は抑えることができた. (*1経済的には最悪の一途, *2併設の対義語って何ですか?包含かな)

 

ところで, 2ヶ月のインターンシップで海外の大学に来ているがための生活を送っているのだけれど, 実務にあたる研究に費やせる時間が限られてきている. デスクに着き, コップ一杯の水とPCを準備すると, 即座にポドモーロ・タイマーをスタートする.

ポドモーロ・タイマーとは, 私のPCにインストールされているアプリケーションの俗称で, タスクの進行を管理するためのツールである. 具体的には, タイマーのスタート後, 25分が経過すると強制的にPCのスクリーンが5分間の間, スクリーンセーバーに覆われる. 当のスクリーンセーバーには謎の黒人 and 謎の格言に加えて5分間のカウントダウンの秒読みが表示され, その間に私は休息をとることができる. 私はその内, 初めの150秒をトイレに, 続く30秒を新しい水を汲むために費やすため, 実際に好きに使える時間は120秒である. その間にインスタグラムとラインに軽く目を通すことができる. 私は業務期間中に幾度も25と5を繰り返す.

ポドモーロ・タイマーは, 私の脳の一部であるPCを完全に掌握し, 本体である私をまるで時計仕掛けのロボットのように駆動する.

 

しかしとにかく, 時間がない.

ない, と言えば無いし, ある, と言えばある. くらいの無さである.

現在でインターンシップは1ヶ月を経過したところであるが, 何しろ準備や計画にしか時間を費やしていないため, これからのスケジュールは寿司詰め必須の大忙し確定である. 私は心理学の実験を実施しなければいけない (したい) ため, 被験者を集めなければならない. 教授に泣きついてリクルートしてもらうつもりであるが, 自分でも見つけておきたい. そもそも, 忙しいドクター・マスターコースの学生よりも, 学外の人間を自分でリクルートした方が時間の都合も効くし, 鼻も高い. そして何より, 大学見学を建前に週末に実験ができてしまうのは, 実験室のブッキングの面から考えても都合がいい.

そう言えば, 以前 "ある噂"を耳にしていた.

"日本同好会"的なものの存在

これを活用すれば良いのでは無いだろうか. 私は偶然にもSting並の"Japanese man in Europe"なので, 図らずも希少価値が高い.

これは業務, タスクだと己に言い聞かせ, Google上で日本同好会的なものの調査をする. 私は生粋のインターネッターなので, 即座に目標のページにたどり着くことができた.

どうやら, いわゆる日本同好会は, 街中のとあるイベントハウスを利用し, 定期的に交流会を開催しているらしい. しかも, そのイベントハウスのページを調べてみたところによるとまさに本日, マリオカートのトーナメントのイベントが開催されるとのこと.

クラシカルな諺である「渡りに船」が目の前に停泊している.

私はそのイベントに出席することを新たにTo-doリストに付け加えた.

 

業務を気合でちょうどいいところまで済ませ, 時間通りに目的地に向かった. 今日, Googleは無神教徒の神父で, Google mapはその我々のための羅針盤であるため. 彼らは私にも漏れなく進むべき道をハイライトしてくれる. 私は限界方向音痴なので, このようなツールを高度に駆使して生活しているつもりである.

私が到着したイベントハウスは, そういった類の"科学"を受け付けない代物らしく, 入場するためにどのドアをどう駆動すればよいものか皆目見当がつかなかった. 私なりに散々思案した挙句, 結局, 通りすがりの人に質問をした. 彼が親切に引き戸の使い方を教えてくれたので, 私は難なくイベントハウスに入場することができた.

 

私が到着した時間は開場直後であったため, イベントハウス内にはオーガナイザーと思わしき数名がNintendo Switchとスクリーンのセッティングを済ませているところであった.

私はその内の一名の女性に「貴殿が此度の催し物の主催者か」という旨の質問をしたところ, 「う〜ん、そんな感じっちゃそんな感じ」という, かなり雑でダルそうなアンサーが返ってきたので, こっちとしても「あっそ」って感じでバーカウンターに雑に腰掛けた.

カウンターを隔てて向こうに立っている男性にビールを注文し, 簡単な身の上話をする上で, 私は「いつもこんな感じのイベントを開催しているのか?」という旨の質問をしたところ, 彼は「1セメスターに2,3回程度」という回答をくれた. 人にイベントの頻度を説明するときに"セメスター"を使うセンスを疑ったが, 文化の違いなのだろうか. ともかく, そんなにレアなイベントに丁度ピッタリのタイミングで出席できた私はかなりのラッキー☆ボーイなのだろう.

そんなことをしている内に, 主催者っぽい女性がトーナメントのエントリー者を募りだしたので, 私は1も2もなくエントリーした. ローマ字で書いたファーストネームの横にひらがなでの名前もいじらしく併記してやった. 結果, 9名がこのトーナメントにエントリーする運びとなった.

その後, トーナメントを開始する前にマリオカートの動作チェックに主催者陣が1グランプリ4レースをプレイしていた. この時点で私は完全にその空間で反孤立状態であり, 人間の空間認知の非線形性に思いを馳せながら, イベントハウスの従業員っぽい女性と会話していた.

その会話の中で, 少し驚くべき事実が発覚した. 「このイベントハウスでは, 定期的に日本同好会 (便宜上の呼称) がイベントを開催していること」および, 「このマリオカートのイベントはそれとは一切関係がないこと」である.

思い返してみれば, 今日私が業務中に調べたWebページには, このイベントが日本同好会によるものであるとの記載は確認されていない. その上この疎外感. 彼らはおそらく同じハイスクールの友人で, 私は完全にストレンジャー. そう考えれば色々合点がいく. どう考えてもインスタントな地獄が完成しており, 私が主にその責め苦を受けている. 私は1番乗りでトーナメントにエントリーしてしまったし, ついでに名前もひらがなバージョンを併記してしまった.

トーナメントには私を含め, 9名の参加者がいるがおそらくこれは, 本来8名の予定で組まれたトーナメントだったのではないか. どう考えてもそんな気がする. 主催者陣がトーナメントの組み方に対して結構しっかり目の会議をしているから.

このあたりで, 主催者っぽい女性が私に, 「マリオカートしたい?」と聞いてきた. どう考えても反語的な質問であったろうに, 私は「うん」と答えた. 普通にマリオカートがしたかった.

結果, 第1ラウンドは, 3人ずつに分けられ, 各ブロック上位2名が第2ラウンド進出. 第2ラウンドも同様に3人ずつに分けられ, 上位2名が最終ラウンド進出. 最終ラウンドでは残った4名から優勝者を選出. というような綺麗なトーナメント形式が出来上がった.

私は, 第2ブロック目に割り当てられたので, そこで上手く負けてさっさと帰ろうと計画した. 帰ってビールを飲もう. 今日だけは2杯飲もう. 私の滞在している国では, 夜のある時間を超えるとアルコール類が購入できないため, できるだけ早めにイベントハウスを辞去しなければならない.

第1ブロックを観戦していると, 各参加者のプレイスキルはまちまちで, ちゃんと上手い人から最悪の初心者までいる. もし第2ブロックでこのような最悪の初心者と私がマッチングしてしまうと, かなりの苦戦を強いられるだろう. しかも, 1試合が1グランプリ4レースなので, およそ15分程度と結構長い. 間違って勝ち進んでしまうと思うと私の飲酒計画に暗雲が立ち込める.

ちなみに, 私は Wii Uマリオカート8をプレイした経験があり, しかもマリオーカート実況が一時期Youtubeのリコメンドに上がってくる程度にはプレイ動画もみたことがあるため, 初心者にバレずに負けるのは難しい.

私はかなりのクソバカなため, 自分のカートをスピードが最も早いチューンナップにしてしまった. 初心者には絶対為し得ない芸当である. しかし, 幸いにもNintendo Switch版のマリオカートをプレイするのは初めてであるため, スタート時にアクセルとバックを間違えて入力してしまい, ガッツリ流れに逆行してしまった. 当然最下位である, 私は安心した.

ところが, あと1名, 私と同じ挙動をしているカートがあった. 第2ブロックの魔物である. 私と彼女は同時に確信したことだろう. 「こいつを倒さなければ」と. アクセルのボタンの位置を把握した私は, 順調に順位を上げていくにもかかわらず, 彼女は冴えない順位をキープしている. 残りの1人は少しだけ話したところによると経験者だそうなので, 放っておいても問題はないだろう. 私は普通に走っていては第2ラウンドに勝ち上がってしまうことが必定なので, ダートインやコースアウトによって順位を下げようと画策した. できることなら完全にそれと分かる舐めプをかましたいが, 一応このイベントが真剣勝負の体裁を崩さない以上には, そのような興を冷ますような無粋な真似はしたくない. 言わずもがな, 学校の友人メインのイベントにお邪魔している時点でかなり申し訳ない節があるからだ.

しかし, そんな事故った内情を孕む私とは裏腹に, 私の操作するドンキーコングは安定感のあるドライブで上位に上がってしまう. おかしい, 私はコースアウトを狙っているはずなのに. 注意深く挙動や画面を観察すると, "ハンドルアシスト機能"が作動していることに気づいた. ハンドルアシスト機能とは, コースアウトになりそうなドライブを自動で修正してくれる補助輪的な機能である. ハンドルアシスト機能は平等に存在する. あるものには力を, あるものには命を. 私は科学技術の二面性を呪った.

第2ブロック第1レースでは, 私は7位, 経験者2(?)位, 初心者8位であった. ハンドルアシスト機能の甲斐あって, 初心者でも中位に食い込むことができ, 私は頑張ってバレないように順位を下げた. というのがこの結果を生み出した.

第2, 第3レースでは私と初心者の彼女の奮闘の甲斐あって, 我々はスコア上同点 (敗退候補タイ) となった. 最終第4レースで, 全てが終わる.

第4レースの舞台はヨッシーバレー. コース内の1部分が分岐しており, 経験者でないと最適なルートを選択するのは難しい. 私は経験者かつクソバカなので, 癖で最適ルートを選択してしまい, そのレースに勝利したため, 第2ラウンドに進出する運びとなった.

第2ラウンドに進む前に, イベントに参加していた人たち (トーナメント参加者, 観戦者)がタバコ休憩をしていた. 彼らがどのような会話をしていたのか知る由もないが, 当の私は, 「どうせ俺がいなくても奴は負けていた」という命題の証明に明け暮れていた. そもそもそういう問題では多分ないのだが. きっと問題は, 首からSonyのワイヤレスヘッドフォンを下げた派手なシャツのアジア人は場違いだということである.

その間に, アルコールの購入が禁止される時間が間近になったため, 私はイベントハウスのスタッフから2本目のビールを購入した. 結構美味しかったが, 飲みきった後に1本目, 2本目共にノンアルコールであることに気づいて, 何となく絶望した. そして, スーパーで寿司を買うことを決意した.

第2ラウンドでは, かなり上手い人しか残っていなかったため, 私は全力をだしたのにもかかわらず簡単に負けてしまった. 負けた私はスムーズに場を後にした. 普段からあらゆるイベントをスムーズに退場, 帰宅しているので慣れたものである.

 

今日は帰って寿司を食べよう. このイベントハウスには適切な日時にまた来よう. 今度はスムーズにドアを開けられるはず.

気づかず流れっぱなしだったSpotifyからはくるりのハイウェイ<Alternative>が再生されていた.

飛び出せジョニー気にしないで

身ぐるみ全部剥がされちゃいな

優しさも甘いキスも

後から全部ついてくる

 

Sonyのヘッドフォンが街の雑踏をかき消したら, 歪な世界に吸い込まれていけばいい.

夜という箱の中には死と睡眠と, 認知バイアスの海の底の石ころがあった.